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特集:関西国際空港
着々と進む関空第二期工事


関西国際空港は、平成六年九月四日の開港以来、諸外国からの乗り入れも着実に増加しており、関西圏はもとより、我が国の発展にも大きく貢献してきました。 現在、さらなる飛躍を目指して、平成十九年のB滑走路供用に向けた二期事業が進められています。 今号は関空特集号として、この二期事業とともに各コーナーにて関空関連の記事をご紹介いたします。この特集とあわせてご覧ください。

はじめに
 関西国際空港(以下、関空)は、増大する航空需要と大阪国際空港の騒音問題に対処するため、二十四時間運用の国際ハブ空港として、泉州沖五kmの海上に建設された空港です。
 しかし、現在の関空は滑走路一本で運用されており、二十一世紀初頭には、処理能力の限界である離着陸回数十六万回に達することが予想されます。そこで、関空全体構想で整備予定の二本の滑走路のうち、四〇〇〇mの平行滑走路を二期事業として整備することになりました。

二期空港島造成工事の基本的な考え方
 二期事業は、現在の一期空港島から二〇〇m離れた沖合に新たな空港島を造成し、二本目の滑走路等を整備する事業です。完成後は、年間離着陸能力を現在の十六万回から二十三万回に増強を図ることができます(図―1)。

図―1/2期計画平面図

 護岸延長約十三km、埋立面積は五四五ha。建設海域の平均水深は、一期のマイナス十八・〇mに対してマイナス十九・五mとさらに深くなり、海底には一期区域より約三割も厚い約二十〜二十六mの沖積粘土層、その下には洪積層が四〇〇m以上堆積しており、一期よりさらに厳しい条件下での施工となります。
 この二期事業は、一期事業と異なり、空港島の造成を関西国際空港用地造成株式会社(以下、用地造成会社)が、滑走路をはじめ空港施設の整備を関西国際空港株式会社(以下、関空会社)が担当する整備主体を分離した上下分離方式を導入しています。
 空港島造成工事は、まず建設海域の軟弱な沖積粘土層の沈下を促し、基礎地盤の強化を図るため砂杭を打設するSD(サンドドレーン)工法で地盤改良して、埋立地造成中の沈下を促進します。そして、その下の洪積層(粘土層と砂層の互層)は、経済的に地盤改良が困難なことから、この層の圧密特性を綿密に分析し、埋立の進捗に伴う沈下の進み具合を予測・計測しながら管理する計測施工の考え方で工事を進めることにしています。
 二期空港島工事(以下、二期工事)で重要になるのは、(1)大量の資材の調達、(2)工事の進捗に伴う的確な沈下管理、(4)短期間により良い土地造成を実現するための効率的な施工、(3)大量の作業船の航行に伴う安全管理、(5)関西国際空港の原点である環境保全及び環境対策です。
 用地造成会社では、二期工事を円滑に進捗させるため、コスト縮減方策の検討と併せて、資材の調達及び施工計画の詳細な検討をはじめ、前記した各事項への対応を継続的に行っています。こうした対応の結果としてこれまでほぼ当初計画通り工事が進捗しています。

表―1/1期・2期空港島規模比較

1)護岸構造
 護岸構造は、一期工事と同様に、延長十三kmのうち約九割で緩傾斜石積護岸を採用しました(図―2)。この構造は、関空の特徴である沈下変形に追随しやすく、かつ安価であり、資材(海砂、山土、石材)の調達が順調ならばヤードの確保も少なくて済みます。また、環境にやさしいなどの利点もあります。

図―2/護岸及び埋立断面図
図―3/土運船による土砂の投入

2)埋立施工
 敷砂工、SD工(ともに後述)に引き続き、土運船により薄層で二次敷砂層を造成し(図―3)、その後直投工事でマイナス六mまで仕上げたのち、直投と揚土作業を平行してプラス九〜十m程度の高さに造成します。二期工事では一期工事に比べて沈下量が大きいことから、さらに護岸際で横持ちした揚土船から山土をダンプで運搬して五〜八m程度の層厚で二次揚土を行うことにしています。二期工事の埋立施工展開計画は、作業船の出入口となる護岸の開口部を一期空港島との位置関係を考慮して設けて、図―4に示す計画としています。

図―4/埋立施工展開計画のイメージ

大量の資材の調達

1)海砂の調達
 SD工法による地盤改良工事では、敷砂材及び砂杭材に約一八〇〇万m3の海砂を必要とします。一期工事では約一七〇〇万m3の海砂のほとんどを瀬戸内海から調達しましたが、その後環境保全の観点から瀬戸内各県で海砂の採取禁止の動きが顕著になり、二期工事の着工以前から海砂の調達について対応策を調査・検討してきました。
 その結果、海砂の調達範囲を九州及び四国、さらには中国などの海外まで拡大して調達環境を整えることにしました。

写真―1/大型貨物船からの輸入砂の積換え(2次運搬)

 輸入砂の使用については、関係行政機関の協力を得て、中国(青島、舟山、寧波)から大型の貨物船(四万〜七万DWT級)で直接工事海域に搬入し、工事区域内に係留した後、砂撒船に二次運搬する仕組みを構築しました(写真―1)。海外から調達された海砂の総量は約二八〇万m3に達しました。
 また、国内の海砂の代替材料として、セレクト材を約二一〇万m3、洗砂を約五十万m3、その他、公共工事で発生した浚渫土を約四十万m3使用しており、前述の輸入砂と合わせると、合計約五八〇万m3使用しています。この量は海砂使用量の約三分の一に相当します。また、瀬戸内海からの調達量はわずか二三〇万m3と一期工事に比べて大幅に削減することができました。


2)山土の調達
 埋立土砂に使用する山土の総量は約二億五千万m3に上ります。二期工事を円滑に進捗させるためには、この山土の確保が重要です。そのため、大阪湾周辺の三府県に協力要請を行い、淡路島の二土源(津名:三五〇〇万m3、洲本:五〇〇〇万m3)、和歌山県の加太(八五〇〇万m3)、大阪府の岬(七〇〇〇万m3)の四土源から計二億四千万m3の山土を確保することができました。図―5にこれまでの山土の搬出状況を示します。

図―5/山土搬出状況

地盤改良工事

1)敷砂工事
 平成十一年七月に着工された敷砂工は、地盤改良工事の第一工程となります。敷砂は沖積粘土層の圧密の進行に伴う水の排水層となるものです。また、工事は海底の軟弱な粘土地盤上に地盤を破壊せず、かつ良好な排水性を有する砂層をつくるもので特に慎重を要します。このため、次の項目について現地調査を行い、最適な施工方法を選定しました。
・ 施工性調査
 (施工効率、使用砂量、移動速度)
・ 出来形調査
 (単位施工幅、層厚、浮泥混入状況)
・その他調査(濁度、GPSの精度確認)
 敷砂の施工は、一・五mの敷砂層を二〜四層に分けて均一散布されます。こうした施工を確実に行うために、リアルタイムに敷砂天端高を計測管理する必要があります。そこで、GPSと連動したオートレッドまたは水圧式センサーによって計測した敷砂天端高と船位をモニター画面上に表示しながら行いました。


2)SD工事
 敷砂工に引き続いてSD工の施工を行いました。SD工は、沖積粘土層中に直径四〇〇m3、杭長二十五mの砂杭を一定間隔で打設し、その後施工される盛砂等の載荷重によって沖積粘土層に含まれる水分を砂杭を通して押し出し、前述の敷砂層から逃がすことで沖積粘土層の圧密を促進させるものです。
 施工には、日本にあるすべての大型SD船八隻とMPD(マリーンプラスティックボードドレーン)船一隻の計九隻を使用しました。
 SDの施工は洪積砂層への着底と砂杭の連続性が厳しく要求されます。このため、一期工事の経験を踏まえて管理マニュアルを作成して各作業船に施工方法及び施工管理方法を徹底するとともに、ボーリング地点付近で現地試験を行い、着底深度の考え方を各作業船ごとに確認しました。
 SD工は、平成十一年八月の開始から平成十二年十一月の一年四カ月で、護岸部、埋立部を含めて合計でSD船で約一一八万本、MPD船で約四万本の計一二二万本のドレーン杭が打設されました。大型作業船の確保、高度な施工管理システムの活用、資材の確保が順調だったこともあって、当初計画よりも約三カ月工期を短縮することができました。

護岸工事

 護岸の構造は、前述したように九割が緩傾斜石積護岸です(図―2)。


1)盛砂工事
 盛砂工事は、護岸部の敷砂及びSDの施工後に予定されている工種です。山土を使用する工事で改良地盤への最初の載荷重となります。このため、工程(進捗)管理のほかに、施工履歴管理と沈下管理が重要となります。
 二期工事では、一期工事より沈下量が大きいことから、いわゆる天端管理よりも層厚管理(=荷重管理)を基本としています。この考え方は、均一な施工を必要とする埋立工事において特に重要です。そこで、後続する埋立工事に備えて、深浅測量システムを活用した層厚管理システムを開発しました。

 深浅測量は、ナローマルチビーム方式を採用しました(図―6)。これは、指向角一・五度のビームを放射状に六十本発信し、最大ビーム角九十度(直下から±四十五度)の範囲内を一度に測定できるもので、測量船に搭載されたGPSによる位置測量と連動することにより効率的に任意の場所の測量データを把握することが可能となります。施工層厚は、土運船一投ごとに事前及び事後の海底地盤の状況の測量を行い、この差分を施工履歴としてデータ蓄積して、施工途中の沈下量で補正することにより面的に把握されます。

図―6/深浅測量による層厚管理

2)捨石部以降の護岸工事
 捨石部は、上部と下部から成っており、下部の捨石は無規格の雑石、上部は十〜二〇〇m3の規格石です。上部の捨石の施工が行われると初めて護岸が水面を切る状態になります。
 断面形成後は水面上については、バックホウで荒均し後、人力で本均しを行った上で上部ブロックの据え付けを、また水中部については、潜水士にて被覆石均しを行った後、消波ブロックの据え付けを行っています。
 消波ブロックは、全体で約十万個製作し、順次据え付けを行うこととしています。このうち三二〇〇個は、海草類が着床しやすく、また波浪によって洗われにくくなるように表面に溝を設けた環境共生型消波ブロック(P.25写真―2参照)で、西側の護岸の五カ所に分散して設置します。また、一期空港島の護岸から藻が根付いている藻礁ブロックを二期空港島護岸に移設するとともに、一期護岸の成熟藻をネット袋に入れて護岸に沈設し、効果的に藻場造成が図れるように計画しています。

埋立工事

 二期工事では大量の山土を扱うことから、工事着工前から三〇〇〇m3級の土運船を約五十隻確保するとともに、VS10と称する運行管理支援システムを開発し、GPSの受信アンテナとともに各土運船に搭載することとしました。また、各土源の積み出し桟橋では、二期工事で新たに採用した土量検収装置により、土運船に山土を積み終わると同時に土量計算が完了します。こうした土運船の確保及び新たなシステム開発により、効率的なかつ安全な土運船の運行及び直投工事が可能となりました。
 VS10は、工事区域外を航行時は自船の位置、船速、針路を示す航海画面によって基本航行ルートと自船の位置関係を把握でき、また文字画面によって土源情報、気象海象情報を確認することができます。一方、工事区域内に入域後は、航行禁止エリア及び障害物の位置等が工事画面に表示されるほか、投入画面には現在の位置と投入計画位置の関係、潮流及び風向・風速の情報が表示され、ピンポイントで投入の位置決めが行えるようになっています(写真―2)。

写真―2/VS10による投入画面

 また、均一な施工層厚を確保するために、土運船の規格・種類ごとに直投後の堆積形状をモデル化し(写真―3)、土運船の規格・種類と投入計画位置を入力することで堆積形状のシミュレーションができる投入計画作成支援システムを開発しました。このシステムによって投入計画を作成し、これに基づいて投入が行われています。写真―4に層厚管理システムにより出力される層厚分析を示します。

写真―3/堆積形状モデル
写真―4/層厚管理システムによる層厚分析

 埋立工事中の沈下管理のために、磁気伝送水圧式沈下計を埋立地内の三十七カ所に設置することとしました(図―7)。この沈下計は計測した水圧データを蓄積することができ、海上から信号を送ると蓄積したデータを自動的に磁気データとして送信する機能を有しています。なお、磁気伝送水圧式沈下計の精度については、護岸の先行調査工区において沈下版を用いた計測と比較・検証しています。

図―7/沈下計測計画

 埋立地内には、用地造成後の沈下管理のために二地点で洪積層の沈下挙動の計測を行うこととしており、既に計器の設置を完了しています。(P.18・19参照)

工事の進捗状況

 平成十一年七月九日の埋立免許の取得を受けて同月十四日に着工されてから二年余りが経過しました。現在は護岸工事が最終段階を迎えて、ほぼ計画通り十一月には外側の護岸が概成し、埋立工事が本格化していくことになります。来年度には揚土工事が始まり、徐々に埋立地が水面上に現れるようになります。
 工事全体の進捗率は、施工数量換算では現時点で約三十%強の進捗率であり、今年度末には約四十五%、来年度末には約七十%に達すると見込んでいます。 
 関空は、平成十三年四月にアメリカ土木学会が選定する二十世紀の十大プロジェクト「Monument of the Millennium」の空港部門に選ばれました。日本では唯一の受賞となる栄誉なものとなりました。この栄誉を胸に二十一世紀の「Monument of the Millennium」となるようなさらなる挑戦が続きます。

図―8/施工進捗状況概要図(平成13年9月15日現在)
写真―5/2期工事区域全景(平成13年8月29日撮影)



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