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Coastal Project Report

沈下予測と沈下計測

洪積層の沈下予測について

 適切な沈下対策を施すためには精度の高い沈下予測が重要な課題となります。沈下の問題は、安全に施工を実施するための主に沖積粘土層を対象とした短期の沈下・安定管理と、長期間にわたって供用性を確保するための洪積層を対象とした沈下予測にわけて考える必要があります。関西空港二期工事では、水深が深く埋立層厚が大きいことから洪積粘土の沈下が大きいことが予測されています。

図−1 空港島の地層

 洪積層は、堆積年代や性質の違いから上部洪積層(厚さ一四〇〜二一〇m)と下部洪積層(厚さ三〇〇〜五〇〇m)に分類できます。(図―1)一期空港島における経験から、二期工事においても以下の三点を解明することが、洪積層の沈下予測の精度を高めるために重要であることが明らかとなっています。

図−2 ボーリング位置図

 (1)上部洪積層の圧縮性の正確な把握
 (2)上部洪積層中の砂層の排水性
 (3)下部洪積層の沈下の評価
上部洪積層の圧縮性の正確な把握
 地盤の工学的な特性を把握するためには、まず入念な地盤調査・ボーリングにより地盤の土層構成、物理的性質、力学的性質を精度の高い室内試験を実施し求める必要があります。さらに洪積層が圧密沈下の対象となる場合には、大深度のボーリングを実施して地盤の深い部分の試料を採取し、特殊な試験を実施する必要があり、慎重な作業が要求されます。二期工事においては、平成六〜七年に実施された四〇〇m級ボーリングの結果と、一期工事の際に実施された大深度ボーリング(図―2)の結果を基に、洪積層の土層構成の判定および沈下予測を行っています。
 地盤の圧縮性を正確に把握するためには、圧縮・圧密特性を正確に調べる必要があります。特に粘土の場合には、変形量が大きいことと圧密に長い時間がかかるため、その特性を詳しく調べる必要があります。洪積粘土のように年代効果が発達した試料に対しては、従来からよく使われている標準圧密試験方法では、圧密降伏応力を正確に求めることが非常に困難です。そこで新しい試験方法である「定ひずみ速度圧密試験方法」の洪積粘土への適用について平成二年度から研究開発に着手しました。研究開発の主な内容は、大容量でかつ精度の高い試験装置の開発、試験手法の開発、試験結果の整理手法と結果の利用方法に関する検討でした。定ひずみ速度圧密試験方法の利用により、圧密降伏応力をはじめとして種々のパラメータを精度よく求めることができるようになりました。また、最大圧密圧力一五〇kgf/m3が載荷可能な試験装置を開発し、大深度で採取された試料の圧密特性の正確な把握のために活用しています。また、粘土層内のひずみ分布を実験的に調べるために、大容量分割型圧密試験装置(最大圧密圧力五十kgf/m3)を新規に開発し、沈下予測解析結果の検証に利用しています。
 地盤調査・土質試験結果は、浅いところから深いところまでデータベース化しています。沈下予測解析にあたっては、このデータベースを活用し計算対象土層を細分化し、細かく土質条件を設定することによって予測の精度を上げています。なお、沈下予測解析では現在最も信頼性が高く実績もある、有限要素法を用いています。

上部洪積層中の砂層の排水性
 上部洪積層中の砂層は、圧密時の排水層として機能するため、その連続性、厚さ、透水性を正確に把握することが、沈下解析上きわめて重要な課題になります。しかしながら、砂層は一般に薄いうえに連続性が悪いため、ボーリング試料を工学的に判定するだけでは、砂層の分布状況などを正確につかむことは困難です。そこで微化石分析(P.25参照)などの地質学的なアプローチを用い、砂層の堆積環境や連続性について評価し、砂層の分布および層厚に関するマップを作成し解析に利用しています。また、一期空港島による砂層内の過剰間隙水圧の測定結果を参考にして、砂層の排水性をモデル化しています。

下部洪積層の沈下の評価
 下部洪積層の沈下のメカニズムは、現在のところ十分に解明されたとはいいがたい状況です。しかし、一期工事の経験から下部洪積層の沈下は、二次圧密によるクリープ的な挙動であると考えられ、沈下予測においては二次圧密として計算を行っています。また、下部洪積層の沈下予測の精度を高めるため、洪積層計測櫓に設置した各種計測装置による現地計測(図―3)を行う計画です。
 なお、以上の沈下予測については、平成三年度以来「関西国際空港(全体構想)の土質に関する技術課題の検討委員会」の指導のもとで発展させてきた手法を用いています。


図−3 洪積層沈下計測計画
情報化施工

 二期工事にあたっては綿密な沈下計測を行い、施工および沈下予測へのフィードバックを行っています。外周護岸部には沈下測定とチェックボーリングのための沈下板を三十六カ所、埋立部に十五カ所設置しています。また、埋立部には磁気伝送水圧式沈下計を三十七カ所設置(P.7図―7参照)して沈下を計測しています。計測された沈下量は、施工管理システムにより計算された埋立荷重による沈下計算と直ちに比較され、各地点における荷重履歴の作成・修正、沈下予測手法の高度化に利用されています。また、洪積層の挙動を計測するために、洪積層計測櫓を二基設置し現地計測を行っています。

洪積層計測櫓
 洪積層の挙動を詳細に把握することを目的として、洪積層計測櫓を二基設置しました。主要な計測項目は、地盤中の各層の圧密変形量を計測するための層別沈下計、各粘土層の圧密の進行を確認するための間隙水圧計、各砂層が排水層としてどのように機能しているかを確認するための間隙水圧計による計測です。間隙水圧計、層別沈下計を櫓(1)では約三三〇m、櫓Aでは約二五〇mの深度まで設置しました。間隙水圧計は櫓(1)で二十九基、櫓(2)で二十八基を、計測対象となる砂層および粘土層に設置しました。層別沈下計は、櫓(1)で二十五基、櫓(2)で二十四基の沈下素子を設置しています。また、ロッド式沈下計を二カ所の櫓で合わせて五基設置しました。機器の設置にあたっては、計測精度が高いのはもちろんのこと、長期にわたって海底地盤中に埋設されていても安定して計測データを取得できる装置を選定しました。特に間隙水圧計は、一基で実績がある信頼性が高いエアーバランス式間隙水圧計を用いています。計測櫓における計測は、十一月から本格的に開始する予定です。


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