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ASCE年次大会の報告

 

ASCEが開催されたジョージ・ブラウン国際会議場
はじめに

 関西国際空港は、本年四月十九日、アメリカ土木学会(ASCE)より、『モニュメント・オブ・ザ・ミレニアム』の一つに選定されました。『モニュメント・オブ・ザ・ミレニアム』は、ASCEが二十世紀における人々の生活の質の向上に最も大きく貢献した土木・建築事業を十の分野に分けて選定していくもので、関西国際空港は、空港の設計・開発部門で選ばれました。なお、アメリカ国外での受賞は、パナマ運河と英仏海峡トンネルとあわせて三つのみとなっています。


ヒューストンのダウンタウン
ヒューストン港の遠景

 この受賞は、大水深軟弱地盤の海域を埋め立てた人工島の建設、対岸からのアクセスのために建設された世界最長の二重トラス橋、旅客ターミナルビルなどの建築物でジャッキアップシステムによる不同沈下対策を採用したことなどの様々なチャレンジ精神溢れる先駆的技術、地域社会への貢献や周辺環境の保全に対する配慮が高く評価されたものです。 

ASCE年次大会への参加

 ところで、ASCEは世界中に十二万人以上の会員を擁する団体で、アメリカでも最も古い歴史を有する工学系の学会です。その年次大会(正式には、Civil Engineering Conference & Exposition 2001と言います。)については、日本の土木学会(JSCE)はASCEとの連携・交流を深めるため、協定を締結していることから、一九九二年頃より参加してきているとのことです。
 関西国際空港は、ASCEによるモニュメント・オブ・ザ・ミレニアムの授与という記念すべき年に、JSCEよりASCE年次大会への参加について要請を受け、大水深軟弱地盤上における大量急速施工を実現する施工技術及び地盤沈下を始めとする地盤問題への対応などについて紹介することとなりました。
 具体的には、国際セッションという一時間半の枠の中で、我が国の海上空港の技術について中部国際空港及び羽田空港とともに、発表及び質疑応答を行いました。また、年次大会と並行して開催される展示会において、JSCEに割り当てられた一ブースを利用して、模型やビデオ等の展示を行いました。我が国から国際セッションへの対応を中心に五十名を上回る出席者となり、交流を深めることができました。
 本稿は、これらを中心にASCE年次大会への参加の様子について紹介するものです。 

開会式でのベイン会長挨拶
NASAヒューストン宇宙センター
ASCE年次大会

 今年のASCE年次大会は、十月十日(水)から十三日(土)までの四日間にわたって、テキサス州ヒューストンのジョージ・ブラウン・コンンションセンターで開催されました。
 ヒューストンは、NASAのジョンソン宇宙センターがあることでも知られる全米第四位の都市で、石油産業及びアメリカを代表する港湾都市として発展してきました。また、バイユー(入江)都市とも呼ばれるように、水と緑と太陽に恵まれ、西洋建築といった歴史的建造物とアストロドームや宇宙センターなどの最新鋭の施設が併存した、とても魅力ある都市です。
 なお、十一日(木)には総会の開会式が行われ、コルツ大会委員長、ベインASCE会長の挨拶に引き続いて、土木技術者でもあるラトリフ・テキサス州副知事による基調講演が行われました。この中で、会長はアメリカの同時多発テロ事件に関して、犠牲者に対する深い哀悼とこの事件を教訓としての土木技術者の役割について触れられました。
 また、ASCEは一八五二年十一月五日に発足してから、来年が一五〇年目にあたるため、記念すべき年の開始宣言が行われました。ASCEでは、三年前から準備を行ってきて、地域的あるいは国家的レベルにおいて、歴史的認識を含めた土木への理解増進、「ズーム・イントゥー・エンジニアリング」をキャッチフレーズとした若い人への教育活動、地域サービス活動など幅広い活動を行うこととしています。「フロム・ストーン・トゥー・スティール」というビデオの上映がありました。これは北カリフォルニアの環境に配慮した水資源プロジェクトやボストンの沈埋トンネルなど都市再整備プロジェクトの紹介や土木の歴史などの内容となっており大変感銘を受けました。

国際セッション下村進行役
国際セッション発表の小林元所長
国際セッション発表の古土井専務

 十二日(金)には、同時多発テロ事件による旅客機の衝突で建物の崩壊した事件に関して「公共の安全のための土木技術者の役割」と題した特別セッションが行われ、世界貿易センタービルについて、ジーン・コーリー氏がまた、ペンタゴンについてポール・ムレーカー氏がいずれも、ASCEの解明チームの責任者として説明を行いました。このプログラムは急遽追加されたもので、現時点での見解の表明を含めて対応の早さに感心したところでした。十三日(土)午前には、シュワルツ新会長への引継が行われ、年次大会の幕を閉じました。 

国際セッション

 国際セッションは、建設/材料、教育、環境・水資源、地盤工学、構造、都市計画など十三の並行して開催されるテクニカル・セッションの一つです。その第一日目(十一日)の朝一番のセッション(八:三〇〜一〇:〇〇)をJSCEが受け持つこととなり、下村フェロー((株)間組顧問)を進行役として、羽田、中空及び関空から地盤問題に関する取り組みを中心に発表しました。下村氏は当初予定していた嘉門京都大学教授、(独)港湾空港技術研究所田中特別研究官が急遽出席できなかったこと、中部空港の技術総括責任者の早田取締役が急逝されたことについての報告がありました。また、関西国際空港についての展示への案内が行われました。
 セッションでは小林元港湾技術研究所長((財)沿岸開発技術研究所専門委員)から、我が国の海上国際空港についての特色を概略説明した後、東京国際空港(羽田空港)については軟弱地盤の実状と地盤改良工法や舗装技術の選択の経緯等について、中部国際空港については環境対策と港湾の浚渫土を活用した管中混合固化処理工法について発表がありました。また関西国際空港用地造成(株)の古土井専務より、関空建設に至る経緯や計画といったプロジェクト概要の紹介を含めて、空港島建設における技術的課題を明らかにするとともに、一期空港島建設時の地盤改良や不等沈下に関する取り組み等をまた、二期空港島建設における一期建設に対してさらなる地盤対策やGPSなどを活用した施工管理等について、発表を行いました。

国際セッションでの熱心な質疑
展示会場での関西国際空港の展示(右から古土井専務、埋浚森参与、小谷野課長)
国際歓迎レセプションにおける古土井専務の挨拶
国際歓迎レセプションの状況

 当セッションでは、開会式開催前の早朝の枠にもかかわらず、多くの出席者があり、また、発表後の質疑も航空需要や維持管理費などを含めて熱心に行われました。
 (財)港湾空港技術サービスセンターの石山常務理事にも航空行政全般について補足説明をしていただきました。 

展示

 展示については、ASCE年次大会のタイトルにExpositionが使われているように、主要なイベントとなっており、多数のブースが設置されて、建設に関係する様々な分野からの展示や若い技術者のための企業のオリエンテーションなども含めて積極的に行われていました。なお、展示期間は、十一日(木)及び十二日(金)の二日間にわたるものでした。
 関空からは、国際セッションでの発表内容との関連性を考慮して、『大水深軟弱地盤上における空港島の造成を実現する技術』を紹介することを目的として展示内容を選定しました。具体的には、作業船(土運船及びサンドドレーン船)の模型やパネルの展示に加えて、工事着工後二年間の歩みを紹介するビデオなど、各種ビデオの上映、二期事業や工事の概要を紹介するパンフレットの配布等を行いました。
 世界からの各機関や企業やからの多く展示が多い中で、関西国際空港の展示はツールはもとより実際に活躍している鈴木課長、小谷野課長をはじめとする技術者が説明を行い高い評価が得られたことと思います。展示の初日に特にASCEベイン会長が古土井専務に表敬に訪れました。

その他

 今回参加したASCE年次大会は、ASCEの年一回の大会ということで、非常に多様なプログラムが並行して開催される大規模なもので、多くの出席者のもと盛大に開催されていることに非常に驚きを覚えたというのが実感です。
 開会式典の前日の十日(水)の夕刻に開催された国際歓迎レセプションには各国の土木学会の代表的な方々にJSCEから関西空港関連で五十名を超える参加者が加わりました。議長からの求めで古土井専務がASCEの幹部にモニュメント・オブ・ザ・ミレニアムの受賞のお礼を述べ、二期事業に対する大きな励ましとなったことを述べました。また、受賞を記念した名刺入れを各国の参加者にプレゼントし大いに関西国際空港のPRとなりました。


■取材・文/
   関西国際空港用地造成(株)
    事業推進部技術課長 小谷野 喜二
   (財)沿岸開発技術研究センター
           専務理事 中村 豊

 


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