「横須賀港馬堀地区高潮対策事業」 高潮・高波浪から東京湾岸住宅地を守る  | 図―1 馬堀海岸位置図 | 平成7・8年の2年連続台風による高潮災害の馬堀海岸 横須賀港馬堀海岸は、東京湾の南西部に位置して北に開け、背後は国道十六号を挟む平坦な埋立地に多くの戸建て住宅地が密集する第一種住居専用地域で、約二七〇〇世帯、約八〇〇〇人の方々が居住しています。 当地域の既設護岸は昭和四十四年に住宅開発を目的とした埋立により築造されたものですが、平成七年と八年、二年連続して台風による高潮のため護岸延長一m2以上にわたる大規模な越波により甚大な被害が発生しました。 特に平成八年九月の台風十七号では、背後の国道十六号が二日間にわたり通行止めになり、市民の生活や経済活動が麻痺するとともに、被害は浸水面積約七十ha、冠水した自動車三八八台に上りました。 このため、被害の大きさと対策の緊急性に鑑み、住民の生活と財産を守り、背後の国道十六号の安定した交通を確保するために、直轄事業により高潮対策として護岸を延長一六五〇mにわたり整備するもので、平成十一年から概ね七年間での完成を目指しています。 |  | 写真―1 馬堀海岸鳥瞰写真(浦賀水道上空より) | この海岸は、港湾計画、エコポート計画において、「自然環境の保全・改善に留意しつつ、親水性を高め、海洋性レクリエーション機会を生み出す場」としても位置づけられ、また、市の推進する『海と緑の一〇〇〇〇メートルプロムナード計画』においても、『海辺の散歩道』を形成するものとされています。 このため、整備に当たっては、防災機能強化を図りつつ、景観にも配慮し、 親水性に富み、安全と安らぎを創造することを基本とし、以下の整備方針を定めました。 (1)高潮対策事業として越波量を抑えることを最優先とする。 (2) 海岸保全施設の構造形式として面的防護方式を採用する。 (3) 景観・親水性等に配慮し、施設天端高は現状程度を基本とする。 (4)前面海域に海苔、ワカメ等の漁場があるため、波の反射は最小限とし、構造物の前出し幅は最大七十m程度とする。 (5)環境共生型の構造となるよう配慮する。 | | 写真―2 平成8年9月の台風17号越波による浸水被害状況 | 親水性・環境・景観に配慮した人工リーフと消波機能の新透過構造形式 馬堀海岸前面の海底地形は、水深も大きく、既設護岸から四十mを超える付近より勾配が急激に変化して、全体的に複雑で起伏に富んでいます。そのため、波の収斂する場所があり、構造形式決定にあたっては、水理模型実験を実施しています。 整備延長一六五〇mは、模型実験での護岸前面の設計波高と越波流量より、I工区(大津側)九〇〇m、II工区(中央部)二〇〇m、III工区(走水側)五五〇mの三工区に工区割りしています。 なお、平成八年の高潮被災時は、沖波波高三・七m、高潮位はD.L.+一・六mであり、冠水量から逆算した越波流量は〇・〇〇一四五m3/m/secと推定されています。 既存の護岸形式で、設計高潮位及び設計波浪に対し、許容越波量〇・〇〇〇二m3/m/secを満足するためには、護岸天端高はD.L.プラス九・二mが必要です。(現在の護岸天端高はD.L.プラス四・六m程度)  | 図―2 I工区大津側標準断面図 |  | 写真―3 直立消波ブロック据付施工状況写真(平成13年8月) | これでは海と陸との間に「高い壁」を築くことになり、これに代えて、水理特性がよく、より低い天端高が実現でき、利用・親水性にも優れた構造形式として、人工リーフ+小段+直立消波護岸の「面的防護方式」を模型実験の結果を踏まえて基本断面としています。 馬堀地区における護岸整備の基本方針として、台風時の高潮や高波に対して防護効果が高く、かつ周辺環境との調和にも優れた新しいタイプの護岸を検討した結果、これまでの海岸に多く見られる直立のパラペット構造(線的な防護方式)に変えて、環境にやさしい材料である割石を階段状に積み上げて 、高波を徐々に減衰させながら石積み護岸上に越波した水を透過構造の捨石部を通じ海に排水させる(透水効果)ことにより、高波浪を効果的に減衰させることにしています。 また、海生生物等の生息場所として適した海域環境に配慮し、消波機能の向上や前面海域の波の反射を抑えるため直立消波ブロック等を設置して護岸の天端を低くおさえる構造を採用しています。 現在の整備状況は、基礎工・本体工(直立消波ブロック)の据付けが中央部の三二〇mで終了したところですが、今後、施工を進めていくにあたり、多くの課題を順次解決して行きたいと思っています。 構造形式の検討においては、谷本埼玉大学教授を委員長とする学識経験者から構成された「横須賀港馬堀地区海岸保全施設整備技術検討委員会 」において、長期間にわたりご指導を得たことに深く感謝する次第です。 ■文/国土交通省関東地方整備局 京浜港湾工事事務所 海岸課長 天坂 勇治 Copyright(c)2001 Coastal Development Institute of Technology. All right Reserved. |