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藻場造成方法は?
 護岸が概成した一九八八年十二月から一九九〇年十二月にかけて、緩傾斜石積護岸の四地点に、魚介類の産卵場、幼稚仔魚の保育場としての機能をもつホンダワラ類の単年生海藻であるアカモク、シダモクと多年生のヤツマタモクを、サザエやアワビなどの藻食性動物の餌場としての機能をもつ単年生海藻であるワカメと多年生海藻のカジメ、クロメの合計六種を選定し、移植を行いました。海藻は主に春と秋に成熟するため、年間を通して安定した藻場が形成されるよう成熟時期の異なる海藻のうち、周辺海域で分布が確認されている種を選定しました。(図―1)
 種苗の移植は、種苗網を護岸に直接固定する方法と種苗網または種ロープを表面に取りつけたコンクリートブロック(藻礁ブロック)を設置する方法の二パターンで行いました。

図―1 種苗移植位置

藻場造成による効果は?
 種苗を移植した後、毎年、観察調査を行ってきた結果、一期空港島の護岸には海藻の生育に必要な光が到達する水深十mあたりまで海藻が繁茂しており、その海藻着生面積は約二十三haにも及ぶことがわかっています。藻場の遷移をみると、一九八九年当初はアオサ場、一九九一年にはガラモ場が主体でしたが、一九九二年頃からテングサ場や海中林が広がり、一九九六年以降では海中林が主体となって変遷していることがわかっています。
 これまでに観察された海藻は合計六十三種類あり、移植した海藻や天然の流れ藻から放出される胞子が着底し、世代交代を繰り返すことによって藻場は形成されています。
 周年繁茂している海藻は、主に種苗移植由来のカジメ、クロメと天然供給も加わったワカメ、シダモクであり、その他にも天然の流れ藻によって繁茂したタマハハキモクが、ワカメやシダモクと同様、冬から春に繁茂する季節変化を繰り返し、安定した藻場を形成しています。

移植した海藻の広がり方は?
 種苗移植を行った海藻のうち、カジメ・クロメ(以下、カジメ属)は、現在では空港島の藻場を代表する種となっています。カジメ属は移植地点を中心に繁茂し、緩傾斜石積護岸全域に分布していったことがわかります。(図―2)
 Aw護岸では被度五%以上が五一一m/年、五十%以上が四八一m/年とほとんど変わりがなく、As護岸では被度五%以上が二一七m/年、五十%以上が六十五m/年、またB護岸では被度五%以上が一一〇m/年で拡大しており、潮通しのよい沖側Aw護岸での拡大速度が高いことがわかりました。

図―2 カジメ属の移植箇所からの広がり

藻礁ブロックの形状は?
 藻礁ブロックは、A型、B型、C型を考案し、さらにC型については三タイプを考案しました。いずれも基盤の上面は泥が溜まらないように屋根型とし、種糸等の固定では波浪で摩耗しないように基盤表面に埋設された軟質材にステープルを用いて打ち付ける工夫を施しました。A型基盤は、緩傾斜石積護岸の傾斜部に設置するため、高さは五十cm以下としました。B型基盤は、波の穏やかな沿岸側の護岸水平部に設置するため、藻礁だけでなく、魚礁としても機能するように基盤の下部は中空としました。C型基盤は、波浪条件の厳しい沖側でも安定性を確保できるよう重さに配慮しました。穴を好む魚介類のためにC1型基盤には横穴(貫通)を、C2型基盤には縦穴(貫通)を設けました。C3型基盤の側面にはイセエビ用に行き止まりの横穴を設けて泥が溜まらないように僅かに下向きにし、基盤の上面は渦流で種苗が滞留しやすいように階段状に工夫しました。(図―3)

図―3 着生基盤の種類

藻礁ブロックの形状と海藻の付着位置との関係は?
 C型ブロック上のカジメの付着部分とその全長について調べたところ、ブロックの型による付着個体数の差はほとんどみられませんでしたが、大型個体に着目すると、C1型基盤に比べて形状に凹凸があるC2及びC3型基盤の方が多く付着しており、側面には少なく、上面の角、溝、穴の部分でよく付着していました。このことから、波の影響を受ける場所では、凹凸が多い付着基盤の方が大型個体の生残に効果があるといえます。

観察される魚介類は?

図―4 流れ藻とメバル稚魚の移動・分散経路

 これまでに空港島周辺海域で観察された魚介類は合計一四一種類であり、空港島が造成される前の砂泥底には生息していなかった多くの魚介類が観察されています。特に、岩礁性のアイナメ、カサゴ、メバルなどは季節に関係なく継続して観察されており、空港島周辺に定着しているものと考えられます。それ以外にもスズメダイ、イシダイ、クロダイ、サザエ、ウニ、ナマコ、タコ等の多種多様な魚介類が観察されています。
 最近の調査結果では、一期空港島護岸で繁茂していた海藻が、流れ藻となって大阪湾全域に漂流しており、これら流れ藻にくっついて約六十万匹以上のメバルが大阪湾に広がっていることがわかっており、空港島護岸に造成された藻場は、大阪湾の環境に水産資源の供給源として貢献していることがわかっています。(図―4)

今後の取り組みは?
 二期空港島護岸においても、一期空港島と同等もしくはそれ以上となる安定した藻場を早期に効率よく造成することを試みていきます。具体的には、@主に魚介類の産卵場、稚仔魚の保育場に適したホンダワラ類によるガラモ場の面積拡大、A主に魚介類の餌場、生活の場となるカジメ等の大型海藻類による海中林の面積拡大によって安定した藻場の形成を図っていきます。

写真―1 ノコギリモク

 二期藻場造成では、一期時に活用した藻礁ブロックを移設したり、スポアバッグによる種付けを行う等、簡便で安価ではありますが、広範に効果が期待できる方法で種苗供給を行います。(図―5)
 また、護岸の深所でも保育機能が高いと言われるガラモ場を造成するため、水深五m以深でも群落を形成する種としてノコギリモクに着目し、一期空港島のAs護岸の中央部と東端の二地点における水深七〜九mにおいて生育実験を行っています。移植して約一年後の生育状況としては、潮通しのよい東端の方で生長がよく、葉長が最大で八十六cmまで生長していることがわかっています。しかしながら、成熟はしておらず、分布範囲の拡大は今のところみられてはいません。引き続き、モニタリングを行い、分布域を拡大することが可能であるとわかれば、二期藻場造成の対象種として取り入れていきたいと考えています。(写真―1)
 さらに、安定した藻場を形成させるため、消波ブロックの脚部に溝を形成して大型海藻の付着能力を高める工夫を施した環境共生型消波ブロックを開発しました。(写真―2)開発にあたっては、製作コストを抑えるために既存の消波ブロックを改良することとし、設計上の必要重量と容易な施工性に配慮するとともに、海藻の着生機能を高波浪時でも高めるために凹凸を設け、溝の幅、深さ、角度は海藻の仮根の大きさや付着動物にも配慮して形状を決定しました。また、溝の位置は、ブロックを整積みで設置する際にできる限り受光面となるように配慮して決定しました。
 以上のとおり、二期藻場造成では、一期藻場造成で得られた知見を活かして、経済的かつ効率的に藻場造成を行ってまいります。

写真―2 環境共生型消波ブロックと据付イメージ
図―5 種苗移植のイメージ(スポアバッグによる種付け)


微化石分析【micro-fossil analysis】
 沈下問題を考える場合、地盤情報をどれだけ正確に把握するかが非常に重要な問題となります。特に深い部分の洪積層の粘土層の厚さや、砂層の厚さと広がりが沈下予測解析に大きな影響を与えます。海底地盤は、砂質土 粘性土 砂質土のサイクルで堆積しています。空港島の海底地盤では洪積層を含め、砂質土と粘性土の互層が非常に多く複雑に堆積しています。地質学的に地層を判定し層序を決定することは、工学的観点からも非常に重要な意味を持っています。
 大阪地盤の地層層序区分は一九六二年に大阪市港区で実施された深層ボーリングOD―1(掘削深さ九〇七m)が基本となっています。OD―1では、下から下大阪層群、大阪層群(Ma0〜Ma10層を含む)、上部洪積層(Ma11、Ma12層を含む)、沖積層(Ma13)に区分されています。大阪層群では、急速な海進と緩慢な海退により、粘土層と砂礫層の互層が形成されたと言われています。この海進と海退は、氷河の変動によっておよそ十万年単位で変動するとされています。その後、海底地盤の層序区分には、海成層・火山灰層・花粉化石・ナンノ化石などの識別・対比によって詳細に区分することが可能になってきました。特にアズキ火山灰層を含むMa3層が層序決定で重要な役割を果たします。
 空港島の海底地盤の調査では、(1)微化石総合調査、(2)ナンノ化石総合調査、(3)珪藻化石総合調査、(4)微化石詳細調査、(5)火山灰および火山ガラス調査などを行いました。微化石総合調査では二〇〇メッシュ(74マイクロメートル)残留分の微化石、砂、火山ガラスなどを調べました。調査の目的の第一は海成粘土層の認定であり、第二は年代の決定です。その結果、アズキ火山灰層を挟むMa3層が同定されました。また、大阪層群の中でMa5、6は存在しないことが判明し、Ma0よりも古いMa1層が存在する可能性があります。なお、基底礫層(DS10層)から一番浅い沖積層(Ma13層)までが空港島累層と名づけられています。
 圧密の排水層として重要な砂層についても各ボーリング地点で層の同定を行ったところ、場所によって存在する層や切れている層があることがわかりました。以上の結果を基に、各砂層の厚さの分布情報をマップ化し、排水機能の評価を行いました。砂層が水を通しやすく(透水性がよい)、なおかつ厚く広がりをもって分布していれば、良好な排水層として機能し、圧密沈下が速く進行します。一方、砂層がレンズ状に入っていて連続していない場合には、排水層として期待できず圧密沈下はゆっくり進むことになります。二期工事では、地質学的・工学的な判断を基に作成した土層区分で沈下予測解析を行っています。

顕微鏡による化石分析


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