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浮体の力学的応答について
〜浮体に関するQ&A〜


体に作用する波には どのようなものがありますか
 浮桟橋など湾内の小規模浮体は、波浪等の影響を受けて動揺します。外力の主なものは、自然に発生した風浪による波ですが、船が航走することにより生じる航走波も無視できません。 

(1)港内の波について
 ナウファス(全国港湾海洋波浪情報網)のデータから湾内波浪の出現頻度の例を図―1に示します。これによると、港内に自然に発生する波浪は有義波高一m以下及び有義波周期六秒以下の波がほとんどです。


図−2 航走波のパターンと観測波高の例

(2)船舶の航走波について
 船が航行することによって、図―2に示すような船とともに進行する航走波(航跡波、後続波、引き波などとも呼ぶ)が発生します。Kelvin波と呼ばれる特有の波紋を形成し、波の頂は横波(Transverse wave)と縦波(Diverging wave)からなっており、横波と縦波の接合部はcuspと呼ばれています。
 航走波をある観測点で計測すると、図―2のような波群としての振る舞いの波面変動となります。様々な方向に進行する素成波から航走波は形成されており、横波は進行方向θ=0°、Cusp上は   θ=35°16'の素成波に相当しています。航走波は船の進行方向に船と同一速度で進むため、船速が早いほど波長が長くて波周期が大きいことになります。航走波の周期を船速で表したのが図―3です。港内では十二kts程度が最大の航行速度と考えられるため、周期は最大で四秒程度になります。小型浮体の運動の固有周期は四〜六秒程度が多いため、航走波に同調する可能性があります。
 図―4は航走波の最大波高と船速との関係の例で、最大波高と船速の関係を無次元値で表したものです。
 図中の推定式で航走波の波高をほぼ推算できます。例えば、長さ五十mの船が十二ktsで航走したときにはFn= 0.28となるので、H/L = 0.9×0.283.5 = 0.01で波高はH =0.01×50 = 0.5(m)となります。


図−3 航走波の周期と船速の関係

図−4 航走波の波高と船速の関係


波による外力により浮体はどのように運動しますか


図−5 浮体の6自由度運動

図−6 Roll、Pitchの応答特性

 浮桟橋のような通常サイズの浮体の運動は六自由度の剛体運動として表現することができ、図―5のように座標軸方向の並進運動と座標軸回りの回転運動で表現されます。この中で顕著な運動は横揺れ(Roll)と縦揺れ(Pitch)です。
 浮桟橋等の通常サイズ浮体の
 動揺特性

 RollとPitchの規則波中運動振幅を波長λと船長比(λ/L)について、応答倍率(最大波傾斜2π/λ)に対する運動振幅の大きさ)で表すと図―6のようになります。
 Rollは減衰の小さい運動であるために、その固有周期に合う周期の波浪外乱が作用すると共振現象が発生し、応答倍率が一を越えて二〜三倍になることもあります。一方、Pitchは減衰が大きい運動であるために、固有周期域での共振運動は発生せずに、Pitch強制モーメントが大きい波長・船長比一・〇付近の波周期域でほぼ波傾斜と同程度の運動をします。
 メガフロートの動揺特性
 浮体長さが数十mの浮桟橋と一〇〇〇m級メガフロートの上下運動振幅の長手方向分布を図―7に示します。浮桟橋などの小型浮体は浮体全体が波による水面上下運動や水面傾斜に乗ったようになるのに対し、メガフロートではその大きさの効果により、浮体の範囲内に波の山谷が無数入り、その各々の力が互いにうち消し合うために、浮体全体の上下運動や傾斜は極めて小さなものとなります。しかしながら、メガフロートを剛体と仮定してみると、ほとんど動揺していないことが分かります。メガフロートでは振幅は小さいものの弾性体としてのたわみ振動が発生するので、このような特性を考えて解析する必要があります。これは浮体端部が波によって揺らされ、浮体内を振動状に伝播する現象ですが、浮体長さが極めて大きいために局部的な浮体傾斜は非常に小さなものです。

 浮体の係留


図−7 浮桟橋とメガフロートの上下運動振幅の比較

 定常的な外力(風、潮流による抗力及び波による漂流力)に対しては有効な保持力を発生して浮体を定位置に保ちつつ、波による周期運動は緩やかに逃がすことが係留設計での基本的な考え方です。浮桟橋では、その使用目的から水平方向運動をかなり強く拘束する杭式係留などの係留方法もよく用いられていますが、これは浮体規模が小さくて係留力が比較的小さいために可能な方法です。一般的に係留設計に際して留意する主な点は以下です。

・バランスの良い係留配置とする。
・非対称性の小さい係留特性とする。
・係留系の固有周期を波周期から十分にはずして、同調を避ける。

海底地形や配置条件などの制約から、上記を満足する結果を見いだすことはなかなか難しく、シミュレーション計算を駆使しつつ試行錯誤を繰り返して、係留設計が通常行われています。

■文/独立行政法人 海上技術安全研究所
   次世代内航船研究開発 プロジェクトチーム 企画調整グループリーダー
   加納 敏幸
   (前(財)沿岸開発技術研究センター調査部主任研究員)
 


I APH【International Association of Port and Harbors】
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■文/(財)沿岸開発技術研究センター
    調査部研究員 真壁 知大

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