はじめに 去る一月十五日、インドネシア西ナツナ海域の天然ガスをシンガポールに発電エネルギーとして供給するパイプラインが完成し、供給開始を記念するパーティーが、シンガポール首相ゴー・チョク・トン氏、インドネシア副首相メガワティ女史他多数のVIPを集めて、シンガポールにて開催された。一部報道でニュースも流れたのでご存知の方もいるでしょう。 インドネシア西ナツナ海域は、水深約七十m、カリマンタン島西沖に位置する東南アジア最大の埋蔵量を有する石油・ガスフィールドと言われており、鉱区を担当するCONOCO・PREMIER・GULF各社はその開発に拍車をかけています。 先日シンガポールに供給を開始したのは、PREMIERの「ANOAプラットフォーム」。このプラットフォームはかつては石油掘削用に作られたものでしたが、一刻も早い天然ガス供給開始の為、昨年夏、Nippon Steel Batam社での設備改造を含め、急遽天然ガス供給に合わせた改造を行ない、一月の供給開始に間に合わせたものでした。 一方、「ANOAプラットフォーム」で採掘されるガス、及び、新しく周辺から採掘する大量のガスを分離・精製するため、「ANOA」に隣接して新規プラットフォームを設置するプロジェクトが「ANOA GAS EXPORT(AGX) PROJECT」です。 プラットフォームの製作 Premier Oil「AGX Project」の設計・製作・据付工事は、九九年十一月、Contractorのコンソーシアムに発注され、その下でNippon Steel Batam社がプラットフォームの製作・加工を請け負うこととなりました。プラットフォームの下部となるジャケットは高さ約七十六m・重量約一二〇〇トン、その上部となるデッキ・モジュールは、高さ約二十四m・重量約三三〇〇トン・投影床面積四〇〇〇u。合計の高さが約三十階建てのビルに相当する大規模なプラットフォームであった。 さらにこのプロジェクトは、通常この規模のプラットフォームなら設計・調達・加工に二十四カ月程度の工期がかかるところを、十七カ月で終了させることを求められている特急プロジェクトでもあり、下部のジャケットを二〇〇〇年九月初めに、上部のデッキ・モジュールは二〇〇一年三月末までに完成・出荷させることとなりました。 ジャケット・デッキ共に四月初めに加工開始しましたが、それに先立って、これだけの大規模な重量物を製作するにあたって、その加工方法・製作場所・出荷方法等について、綿密な検討・対策が行なわれました。三三〇〇トンの重量物を製作さらに出荷時に通過する場所には、地盤沈下を防止するコンクリート基礎杭の打設、工場稼動を二十四時間にする昼勤・夜勤の二交代制、能率向上・高所作業削減を図る為の大型クレーンを活用した大ブロック工法の採用等、工期短縮・作業者安全確保のための様々な対策が実施されることとなりました。 実行においては、加工設計プロセスにおけるコンピュータソフトウェアの最大活用により、人為ミスを極力削減し、Primavera等の進捗管理ソフトウェアの活用した厳密な工程管理の実施、過去の経験・技術を生かした工夫、作業員の昼夜を問わない作業により、工程を遵守し、九月六日、予定通 りジャケットを出荷完了。同じく新日鉄所有のDerrik Barge「くろしお」(保有クレーン吊能力:二八〇〇トン)を使用して、九月十五日現地に据え付けられました。 デッキに関しても、インドネシアでの最大の休日であるハリラヤ(断食明けの大祭、日本で言うお盆と正月を併せた状況)さえも特別手当を支給して作業員に作業を続行させる、管理者全員による安全管理の強化等により、厳しい工程を守りながらも無災害を継続、つい先日四月二日に出荷を完了しました。現在輸送中であり、後日「くろしお」を使っての現地据付が行われる予定になっています。 このプラットフォームは、五月中旬までに海上にて最終の一体化・機能テストを実施、七月十五日までにPREMIERへ引き渡され、以降このプラットフォームを使ったシンガポールへのガス供給が開始される予定です。 おわりに Nippon Steel Batam社は、インドネシアバタム島に設立されてから七年間、先進外国企業としての技術優位・信頼性を生かし、多数の石油・ガス開発プロジェクトを受注し、東南アジア地域のエネルギー開発の発展、さらにはインドネシアのローカル技術者のレベル向上に寄与してきました。 今後もその役割は変らないものの、一方で、東南アジア経済の回復及び高い石油価格に支えられた石油ガス開発の増加が見込まれる状況下においても、ローカル鋼構造物加工ヤードにおける技術レベル向上が急速に進んでおり、生き残りをかけた受注競争の激化が予想されています。 その中で勝ち残るために、先駆する外国系企業としても、品質・安全面を含めた高い信頼性、より多くの経験を生かした競争力の強化が求められています。
|