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Coastal Project Report
インドネシアバタム島における
海洋鋼構造物製作事業


はじめに
 バタム島は、人口約四十万人(非公式には七十万人とも)、面積は四一五2km、シンガポールからのフェリーが一日あたり約七十便・航海時間約五十分、シンガポールに最も近いインドネシアの島です。一九七〇年代はじめから、インドネシア政府により工業開発重点地域に指定され、八九年にシンガポール政府より提唱された「成長の三角地帯」構想を契機に開発が進展。安価な労働力が調達できることに加えて、同島が保税地域(自由貿易地域)として関税がかからないこと、数々の税制優遇措置があることから、日系企業約四十社を含め、電器・機械の部品製造・組立や造船、繊維業を中心に、国内外から投資が集まり、九九年末現在で、バタム島に対する総投資額は約七十億US$にのぼっています。

Nippon Steel Batam
新日本製鉄株式会社がバタム島の西側タンジュンウンチャン地域に、PT. Nippon Steel Batam Offshore Service(以下Nippon Steel Batam社)を設立したのは一九九四年。インドネシア及び東南アジアにおける海洋鋼構造物の製作・加工拠点、加えて、新日本製鉄が所有するDerrik/Pipe Line Lay Barge「くろしお」の帰港基地として、営業を開始しました。 九四年当初は、電気・水道等のインフラも無く、雨が降るとぬかるんで膝が埋まるくらいでしたが、以来、土地拡張・地盤改良・岸壁線補強・工場建設・インフラ設備・コンピュータ設備等の投資を行い、現在、年間売上高 約十五〜二十百万US$、日本人四人・外国人七人を含め従業員約四〇〇名(期間雇用他を含めると約八〇〇名)、面積約十四ha、建屋面積一二〇〇〇m2、長さ二三〇mの岸壁、重量物出荷用のSlipway 二本(耐荷能力七〇〇〇Ton)、六五〇Ton Crawler Crane 二台を始め多数の大型重機を擁し、東南アジアでも有数の海洋構造物加工ヤードとなっています。
 Nippon Steel Batam社が主に対象としているのは、石油ガス開発会社の洋上掘削・精製・搬送基地となるプラットフォーム(写真:例)の製作・加工であり、九四年の設立以来、インドネシア・マレーシア・タイ・ミャンマー・インドといった東南アジア各国の石油・ガス開発プラットフォームの製作・改造に多数の実績を残しています。
 ここでは、直近で完了したPremier Oil Natuna Sea Limited向けプラットフォームを例に取り、石油・ガス開発の現状と海洋構造物製作の実態をご紹介します。

ナツナ海域の エネルギー開発
 去る一月十五日、インドネシア西ナツナ海域の天然ガスをシンガポールに発電エネルギーとして供給するパイプラインが完成し、供給開始を記念するパーティーが、シンガポール首相ゴー・チョク・トン氏、インドネシア副首相メガワティ女史他多数のVIPを集めて、シンガポールにて開催された。一部報道でニュースも流れたのでご存知の方もいるでしょう。 インドネシア西ナツナ海域は、水深約七十m、カリマンタン島西沖に位置する東南アジア最大の埋蔵量を有する石油・ガスフィールドと言われており、鉱区を担当するCONOCO・PREMIER・GULF各社はその開発に拍車をかけています。 先日シンガポールに供給を開始したのは、PREMIERの「ANOAプラットフォーム」。このプラットフォームはかつては石油掘削用に作られたものでしたが、一刻も早い天然ガス供給開始の為、昨年夏、Nippon Steel Batam社での設備改造を含め、急遽天然ガス供給に合わせた改造を行ない、一月の供給開始に間に合わせたものでした。 一方、「ANOAプラットフォーム」で採掘されるガス、及び、新しく周辺から採掘する大量のガスを分離・精製するため、「ANOA」に隣接して新規プラットフォームを設置するプロジェクトが「ANOA GAS EXPORT(AGX) PROJECT」です。

プラットフォームの製作
 Premier Oil「AGX Project」の設計・製作・据付工事は、九九年十一月、Contractorのコンソーシアムに発注され、その下でNippon Steel Batam社がプラットフォームの製作・加工を請け負うこととなりました。
 プラットフォームの下部となるジャケットは高さ約七十六m・重量約一二〇〇トン、その上部となるデッキ・モジュールは、高さ約二十四m・重量約三三〇〇トン・投影床面積四〇〇〇u。合計の高さが約三十階建てのビルに相当する大規模なプラットフォームであった。
 さらにこのプロジェクトは、通常この規模のプラットフォームなら設計・調達・加工に二十四カ月程度の工期がかかるところを、十七カ月で終了させることを求められている特急プロジェクトでもあり、下部のジャケットを二〇〇〇年九月初めに、上部のデッキ・モジュールは二〇〇一年三月末までに完成・出荷させることとなりました。
 ジャケット・デッキ共に四月初めに加工開始しましたが、それに先立って、これだけの大規模な重量物を製作するにあたって、その加工方法・製作場所・出荷方法等について、綿密な検討・対策が行なわれました。
 三三〇〇トンの重量物を製作さらに出荷時に通過する場所には、地盤沈下を防止するコンクリート基礎杭の打設、工場稼動を二十四時間にする昼勤・夜勤の二交代制、能率向上・高所作業削減を図る為の大型クレーンを活用した大ブロック工法の採用等、工期短縮・作業者安全確保のための様々な対策が実施されることとなりました。
 実行においては、加工設計プロセスにおけるコンピュータソフトウェアの最大活用により、人為ミスを極力削減し、Primavera等の進捗管理ソフトウェアの活用した厳密な工程管理の実施、過去の経験・技術を生かした工夫、作業員の昼夜を問わない作業により、工程を遵守し、九月六日、予定通りジャケットを出荷完了。同じく新日鉄所有のDerrik Barge「くろしお」(保有クレーン吊能力:二八〇〇トン)を使用して、九月十五日現地に据え付けられました。
 デッキに関しても、インドネシアでの最大の休日であるハリラヤ(断食明けの大祭、日本で言うお盆と正月を併せた状況)さえも特別手当を支給して作業員に作業を続行させる、管理者全員による安全管理の強化等により、厳しい工程を守りながらも無災害を継続、つい先日四月二日に出荷を完了しました。現在輸送中であり、後日「くろしお」を使っての現地据付が行われる予定になっています。 このプラットフォームは、五月中旬までに海上にて最終の一体化・機能テストを実施、七月十五日までにPREMIERへ引き渡され、以降このプラットフォームを使ったシンガポールへのガス供給が開始される予定です。


おわりに
 Nippon Steel Batam社は、インドネシアバタム島に設立されてから七年間、先進外国企業としての技術優位・信頼性を生かし、多数の石油・ガス開発プロジェクトを受注し、東南アジア地域のエネルギー開発の発展、さらにはインドネシアのローカル技術者のレベル向上に寄与してきました。
 今後もその役割は変らないものの、一方で、東南アジア経済の回復及び高い石油価格に支えられた石油ガス開発の増加が見込まれる状況下においても、ローカル鋼構造物加工ヤードにおける技術レベル向上が急速に進んでおり、生き残りをかけた受注競争の激化が予想されています。
 その中で勝ち残るために、先駆する外国系企業としても、品質・安全面を含めた高い信頼性、より多くの経験を生かした競争力の強化が求められています。
現地に着任して約1年半が経ちました。流石に熱帯の気候には慣れ、またインドネシア語での会話もかなり上達しました。彼らののんびりとしたペースに時に苛立つことも有りますが、“ここはインドネシア”とこちらも腹を括り、根の陽気な彼らとの仕事を楽しむ余裕も少し、出来てきました。
Nippon Steel Batam社 塚田祥氏

Nippon Steel Batam社に着任した日本人スタッフ一同。 本稿筆者は、向かって一番右の人物


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