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ニュース・フラッシュ 特別寄稿
 平成13年1月26日に発生したインド西部大地震の復旧・復興支援の事前調査のために、内閣府政策統括官(防災担当)付布村明彦参事官を団長に、国土交通省3名、JICA3名、他1名で構成された「インド地震災害復旧・復興要請背景調査団」が2月26日〜3月6日の日程で現地に派遣されました。
 港湾空港技術研究所地盤・構造部野津厚主任研究官は、同調査団の一員として港湾関係を中心として調査に当たりました。以下に野津主任研究官に寄稿いただいた調査報告をご紹介します。
インド西部大地震によるカンドラ港の被害
独立行政法人港湾空港技術研究所
地盤・構造部 主任研究官 野津 厚


はじめに
 二〇〇一年一月二十六日に発生したインド西部大地震(モーメントマグニチュード七・六)ではパキスタン国境に近いグジャラート州で甚大な被害が生じた。本地震による死者は約二万人と報告されている。我が国政府は復旧・復興支援のニーズ把握を目的とした調査団を二月二十六日〜三月六日の行程で現地に派遣した。筆者は調査団の一員としてインド有数の貨物取扱港であるKandlaの被害を調査する機会を得た。 以下はその報告である。

被害の概要

図ー1 Yagi and Kikuchiの断層モデル1)とKandla港(2つのモデルのうちここでは南落ちのModel 1を示す
 Kandla港は図―1に示すようにGulf of Katch(カッチ湾)の湾奥から北に延びるKandla Creekの西岸に位置している。 Kandla港には貨物用バースが八(数え方によっては十)、石油バースが四存在する。これらのバースはすべてKandla Creekに平行な南北方向の法線を有する。今回の地震では貨物用バースNo.1―5と石油バースに被害が生じた。また背後地盤では大規模な液状化が発生し、上屋等に深刻な被害を及ぼした。今回は貨物用バースNo.1―5及び背後地盤の液状化を中心に調査を行った。
 貨物用バースのうちNo.1―5は一九五五年に竣工したRC杭式桟橋である。設計はドイツ人技術者によるとのことである。写真―1はバースNo.1―5の外観を示す。このように、桟橋は柱と梁の組み合わせからなる上部工をRC杭が支える形式である。我が国の横桟橋では背後に土留めが存在することが多いが、本施設では緩傾斜護岸となっている。地盤条件は、比較的厚いシルト層の上に厚さ二m程度の埋立を行ったものである。
 Kandla港は干満の差が大きく七mに達する。この結果、干潮時には小船で上部工の下に入り、杭の被害状況を見ることができる。調査当日の十三:〇〇には干潮であったので、杭の被害状況を見ることが出来た。

写真ー1 バースNo.1ー5の外観

写真ー2 RC杭の被害状況
(直杭に生じたクラック)

写真ー3 陸側のRC杭に生じた
コンクリートの剥落

写真ー4 液状化による
桟橋ー背後地盤間の段差

写真ー5 液状化による噴砂
 写真―2はRC杭の杭頭部付近に生じたクラックを示す。写真でわかるとおり、ほぼすべての杭において杭頭付近にクラックが生じている。なお、クラックは主に護岸法線方向に垂直に生じている。このことから、当該桟橋に作用した地震外力がほぼ護岸法線平行方向(南北方向)であったと推察される。これは、本地震が東西方向に走向を有する逆断層で発生し1)またKandla港が震源断層の真南に位置しているため、Kandla港では断層に直交する南北方向の揺れが卓越した2)ためであろうと想像している。
 写真―3は陸側杭の杭頭部に生じたコンクリートの剥落である。こ のように陸側杭は比較的大きな被害を受けたが、これは、同一の上部工変位に対して杭長が短いぶんだけ杭頭モーメントが大きくなるためであると想像している。我が国では横桟橋の陸側杭の杭径を大きくとることによってこの問題に対処している。本施設のように陸側において杭の本数を多くしても、杭径が同じであれば問題の解決にはならない。
 今回の地震でKandla港の背後地盤では液状化が生じた。液状化は 層厚二mの埋土ではなくその下の原地盤に生じたものと考えられる。貨物用バースNo.7背後の上屋の液状化による調べたところ、杭基礎が打設されていた部分とそうでない部分の間に段差が生じてい た。この段差から液状化による沈下は二十cm程度であったと推定される。写真―4は貨物用バースNo.7(桟橋)と背後の地盤の間に生じた段差を示す。桟橋は杭上に存在するので地震時に沈下は生じない。それに対して背後地盤が液状化により沈下したため段差が生じた。段差は二十cmにのぼる。同様の段差は貨物用バースNo.6―8に共通して存在していた。写真―5は背後地盤の噴砂の跡を示す。

カンドラ港の復旧に向けた課題
 Kandla港の復旧と耐震性向上に向けた課題は多い。まず、地中部の杭の状況把握が課題となっている。これについては構造・地盤の条件や上部工の残留変位についての情報が必要である。一方、Kandla港は干満差のはげしい港湾であり、杭の被災部分は干潮時には水面上にあるが満潮時には水面下に没する。このような特殊な環境において最適な復旧工法および材料とは何かについて検討が必要である。最後に、今後の地震災害軽減のため、液状化対策を行うことが必要であると考えている。

その他の所感
 今回、カンドラ港で発生した被害を解明する上で最大のボトルネックは強震記録が得られていないことである。今回の地震で震源に最も近い記録は震源から二〇〇km以上離れたグジャラート州最大の都市アーメダバードで得られたものである。住宅等が壊滅的被害を受けたブジ市では地震計は存在したが地震計ががれきの山に埋まっていると言われている。このため、構造物に作用した外力が判らず、復旧断面を決めるにも、外力レベルの妥当性について十分な検討を行うことができない。この点が我が国の港湾で我々が経験している被害調査と大きく異なる点であった。


■謝辞 Kandla Port TrustのRaisinghani氏とSajnani氏には熱心に現場を説明していただきました。調査に同行された在印日本大使館の山根参事官にはいろいろな面で助けていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。
■参考文献 1)東京大学地震研究所(http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/Jhome.html) 2)野津・井合・IWAN:震源近傍の地震動の方向性に関する研究とその応用、港研報告、Vol.40、No.1、2001年3月、pp.107―167。
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