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沿岸プロジェクト―20世紀を振り返って
「浮体式防災基地」
もしもの災害のために浮かぶ防災基地


大震災の復旧活動を教訓に 生まれた防災基地


港からの支援活動(神戸港)

 一九九五年一月十七日に発生した阪神・淡路大震災では、建築・土木構造物の甚大な被害により長期間にわたり都市活動が停滞しました。このときの救援・復旧活動を通して、災害発生直後から本格的復旧活動までの二週間の初期段階で海上からの支援活動の重要性が再認識されました。
 重大な被災を被った地域においても、係留や停泊していた船舶はほとんど被害を受けず、さらに物資の搬入や臨時の宿泊施設として船舶が果たした役割は極めて大きいものでした。
 このような経験から、地震災害における海運、港湾施設の役割が見直されるとともに、地震に強い浮体の有用性が国民に広く認識されるきっかけにもなりました。
 そこで、運輸省(現国土交通省)は、浮体構造物の「地震の影響を直接受けることがない」という優れた特徴を生かし、積極的に防災に活用するために東京湾、大阪湾、伊勢湾の三大湾に浮体式防災基地の整備を行いました。
 浮体式防災基地は、地震災害時などの緊急時に、被災地に曳航していき、避難生活や復旧活動を支援する防災基地にすることを目的とした浮体式構造物です。


海上支援活動の重要性

災害時利用想定図(東京湾)

 この構造物は、浮体の持つ次の特徴を生かして計画されました。(1)地震の影響を直接受けることがない(耐震性)、 (2)曳航することにより被災地までの異動が可能(移動性)、(3)内部空間を利用し緊急物資の一時保管が可能(内部空間の利用)。
 また、阪神・淡路大震災における海からの支援活動での教訓を生かし、災害時には、次の機能を発揮することを想定しています。
(1)物流の確保
・ 海上からの緊急物資の輸送・搬入
・ 啓開資機材の搬入、搬出
・ 緊急物資の荷さばき、一時保管
(2)交通拠点
・ 病人、けが人の緊急輸送施設(ヘリポート)
・ 地域住民の海上輸送拠点
(3)救援復旧活動拠点
・ 情報拠点、指令拠点
・ 医療、衛生活動への支援拠点
以上のことから、三大湾の浮体式防災基地は、次の共通の特徴・機能を有しています。
 (1)緊急時の移動に配慮した、離脱可能な係留とカットアップされている浮体底面、 (2)一〇〇〇DWトン級貨物船が係留可能、(3)中・小型ヘリコプターが離発着可能なスペースを確保、(4)二五トン吊トラッククレーンが走行、吊り作業可能、(5)甲板上にテント用のフック金具を配置。 さらに、各浮体式防災基地は、地域的特性や技術開発的な配慮も加味してそれぞれ異なる構造と特色を有しています。

地域的特性を生かした 三つの防災基地

 東京湾の浮体式防災基地は、現在は横浜港に係留されています。
 浮体構造:鋼構造  長さ×幅×高さ: 八十m×二五m×四m
 特色は次のとおりです。
(1) 浮体両側面がダブルデッキとなっており、上側を大型船舶、下側を小型船舶が係留可能
(2) 浮体内部の物資保管スペースでフォークリフトが使用可能


通常時の利用。大阪湾ではユニバーサルスタジオジャパン(USJ)の旅客船桟橋として利用

ドックから係留場所へ曳航中(伊勢湾)

 大阪湾の浮体は、通常時には此花地区島屋に係留され、平成十三年四月にオープンした大型テーマパーク・ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの海側玄関口として旅客船の公共桟橋として利用しています。

 浮体構造:PCハイブリット構造
 長さ×幅×高さ: 八十m×四十m×四m
 主な特色は次のとおりです。(1) 大型ヘリコプターの離発着が可能なスペースを確保 (2) 通常時は屋根を設置。この屋根は災害時は撤去可能 (3) 二〇〇〇Gトン程度の旅客船が係留可能
 伊勢湾の浮体は、対象海域が広いため複数箇所で利用できるように、また、狭隘な港にも利用できるようにA・B函二つに分割できる構造としました。 通常ではA函は名古屋港金城埠頭。B函は名古屋港ガーデン埠頭に係留して官公庁船等の浮桟橋として利用します。
 浮体構造:RCハイブリット構造
 長さ×幅×高さ: A函 四十m×四十m×三・八m B函
 四十m×二十m×三・八m
 主な特色は次のとおりです。
(1)A函、B函をそれぞれ単独で使用可能
(2)スライドガイドで連結して一体として利用可能
(3) A函、B函の連結方法次第で、八十m岸壁の確保可能

  (財)沿岸開発技術研究センターでは、平成十年度から十二年度にわたり、三大湾の浮体式防災基地の検討、設計を「浮体式防災基地 技術課題検討委員会」の指導を受けながら実施しました。

 これまで、防災基地に限らず浮体の利用に関する調査研究を精力的に実施しており、浮体式防災基地はその成果の一つといえます。今後、さまざまな有効的活用方法が期待されますが、災害時の機能を活用する機会には恵まれないことが望まれます。


浮体式防災基地の内部空間

 平成12年9月1日、運輸省第五港湾建設局(現国土交通省中部地方整備局)は、伊勢湾に配備された浮体式防災基地を用いて、自衛隊、海上保安庁、愛知県及び名古屋市と共同で合同防災訓練を行いました。
  訓練は、(1)船舶による海上防災訓練、(2)ヘリコプターによる救難訓練及び緊急物資輸送訓練、(3)トラック、消防車等による緊急物資輸送訓練が行われ、滞りなく終えることができました。参加メンバーからは「実用に十分に耐えることがわかり、災害時には大いに活用したい」との声も頂き、地元自治体から高く評価されただけではなく、マスメディアにも反響がありました。また、その後愛知県を襲った河川水害では、救難基地として活躍しました。


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